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執筆者の写真Kunihiro Sugiura

「オーケストレーションは手書きで学べ」「書く音・書いた音を想像してみよう」

パソコンソフトで楽譜を入力するのが当たり前の時代ですけど、何段ものスコア用紙に鉛筆でコツコツ書くのが一番の勉強になるんです。音符を組み合わせて頭の中で鳴らすのは最初はワケがわからないかもしれないけど、、、「慣れ」と「経験の積み重ね」です。


四声体のコラールとか賛美歌など音数の少ない素材を、オーケストラなら弦楽、木管、金管に、吹奏楽ならフルートとダブルリード、クラリネット群、サクソフォン群、トランペットとトロンボーン、ホルンとユーフォニアムとテューバのように。楽曲の調性や音域にもよりますが、各セクションだけでも音楽が成立するように書いておけば、Tuttiのバランスも自然と整うものです。


ピアノはオーケストレーションやアレンジに欠かせない楽器です。

管弦楽の魔術師ラヴェルは「自分の作品の初稿を仕上げる時よりも、オーケストレーションを行う時の方がはるかに頻繁にピアノを使う」と言っています。

鍵盤を弾き、響きを想像する。

音ミスの発見など、楽譜作成ソフトは簡単にプレイバックしてくれるから確かに便利ですが、スタジオ・レコーディングのように楽器ごとの音量調節がいとも簡単にできてしまいます。大事なのは「生音でどう響くか」。それを頭の中で鳴らしてみるのです。

吹奏楽をスコアリングした人なら一度は経験した事があると思います。「思ったように鳴らない。」

楽器の効果的な音域や使い方・重ね方に慣れていないと、吹奏楽の場合はとても貧弱な響きになってしまいます。

「東洋のバルトーク」と言われた大栗裕は「オーケストラは簡単だが吹奏楽は難しい」という言葉を残されています。


「管弦楽法」のE.ベルリオーズ-R.シュトラウス、W.ピストン、内容は今となっては古いですが深海善次の「吹奏楽法」(以上音楽之友社)、そして何と言ってもF.エリクソン=伊藤康英訳の「バンドのための編曲法(東亜音楽社)」は大いに勉強になりました。(伊藤さんによる注釈は日本のスクールバンド事情を意識しており、大変ためになります。)

余談ですが最近は「エリクソン」とか「カーター」とか、なかなか演奏されませんね。無理のないオーケストレーションだし、楽器を始めた中学生にはとてもとても良い教材なんですけれども。。。


自分が楽しむだけならどんなに汚いスコアでも良いですが、人様に演奏してもらう楽譜はそうはいきません。

楽器名が明記されてない、ファだかソだかわからない…パート譜のミスを生む原因にもなり兼ねません。丁寧に書かれたスコアの方が指揮者も気分が良いにきまってます。

丁寧、と言っても、小学生が教科書の楽譜を定規を使ってそっくり書き写すようなのは時間の無駄です。

真下にある同じ楽器の音部記号や調号を省略する、小節線、なが~い松葉、カデンツァで用いるなが~い連桁、「col…」の横線ぐらいには定規を使い、あとは全てフリーハンド。

黒玉より二分音符、二分音符より全音符は幾分大きく書き分け、棒はやや薄く細く(個人的な趣味もありますが、楽典で記されているよりも短くした方がスッキリ見えるようです)、連桁は太くすると、メリハリのある読みやすいスコアになります。そして、

「縦の線を揃えること!」。

何段にも渡るスコアを書く時にはこれが重要なポイントです。

またまた脱線しますが僕の手書き時代は、製図用の白いプラスチック板に後ろから蛍光灯を当て、小節線と拍ごとの赤いラインの入ったスコア紙の下敷きを作り、その上にこれから書くスコア用紙を重ねて書いてました。小節内の赤いラインが透けるので、神経を使わずに自然にタテが揃いました。


さあ、スコアが書き上がりました。パート譜を…おーっとその前に、タイトル書いてあるか?作編曲者名書いてあるか?練習番号は?強弱記号は?速度記号は?自分が当たり前だと思っていても奏者にとっては未知の楽曲である可能性が高いから、そこは漏れなく記入します。

さてここから面倒くさい作業です。パート譜作成。これも全部手書き。でもね、これがまた勉強になるんですよ。移調の間違いとか、3rdクラリネットに書いたつもりが途中から1段間違えてアルト・クラリネットに書いてしまってたり、金管が休みなしで吹きっぱなしだったり、持ち替えの打楽器名が書いてなかったり…思わぬ発見があります。当然ながらスコアに記載されているもろもろの記号をしっかり記入。これができてないとリハーサルに大きく大きく影響します。音楽性とかオーケストレーションがどうのこうのじゃなく、楽譜の訂正で貴重な時間をとられてしまう可能性も。


もしあなたが本気で将来プロの作家・オーケストレーターを目指すのなら、、、

この世界では、たわいのないリハーサルの中断をものすごく嫌います。それがあまりに積み重なるともう使ってもらえません。

音楽は「時間の芸術」でもあります。時間が勝負。締め切りが厳格に定められているのなら、その1日前には作業が完全に終了するような余裕のあるスケジュールを組み立てましょう。

ついでに言っておきますが、仕事のできる人は「遅刻する人」を嫌います。誰か一人穴が空いてしまっても物事が成立しない厳しい世界です。


さてさてスコアもパート譜も完成!

でも、実際の音を聞いてみないことには努力の甲斐がありませんよね。


協力してくれそうな団体を友人知人に相談したり紹介してもらいましょう。1~2分程度の、初見でごくごく簡単に演奏できる譜面であればリハーサルの合間や終了間際に試奏してくれるのではないでしょうか。指揮者や代表者から紹介されると思いますが、「ご協力ありがとうございます。よろしくお願いします。」程度の簡単な、でも丁寧で笑顔のある挨拶をしましょう。音楽は「それ自体が語るもの」。はじめから曲に関する講釈を長々してしまったら演奏者は待たされ退屈してしまいます。

もし録音を録りたければあらかじめ了解を得ておきましょう。


いくつになっても自分の作品が実際の音になる瞬間は緊張します。不安で前夜に睡眠不足になる事も多々あります。

初めて自作を書き演奏してもらうあなたはなおさらでしょう。でも興奮を抑え、深呼吸。


演奏が始まったら音に全神経を集中します。気になるところがあったら鉛筆でチェックしておき、通奏後に修正やオーダーをします。基本的には、まず指揮者に。楽器名を言うとアンテナの高い優れたプレイヤーは即座に反応し、こちらの会話を聞き取ろうと耳を傾けてくれるでしょう。こちらも、そのプレイヤーを意識しながら指揮者へ指示を仰ぎます。指揮者はアレンジャーの意図を理解し、プレイヤーに伝えます。優秀なプレイヤーはさきほどの会話を含め再確認し十分納得してくれます。

相手からの質問があったら短く、でも丁寧にわかりやすく答えます。

指揮者とプレイヤーに同時に伝えた方が良い場合もあります。時間が限られている時やごく短く答えられる質問など。

「アルトサックスの1」「ラッパの2番」「ユーホの人」等の通俗的な呼び方は禁物です。その楽器を愛し研鑽を積んできた方々です。中には市民オケ・市民バンドで何十年というキャリアの方もおられます。プロともなれば、自分より音楽的才能に恵まれた方も幾人もおられます。敬意を持って「アルト・サクソフォンの1番の方」「トランペット2番の方」と指名しましょう。気心の知れた団体で個人名を知っていれば「ユーフォニアムの佐藤さん」でも良いですね。

リクエストや質疑が終わると「ではもう一度やってみましょうか?」となるでしょう。

もしかしたら演奏後に拍手が起こるかもしれません。とても嬉しい瞬間です。プロの場合はその拍手の雰囲気で自作が成功したかどうかがわかります。本当に怖いですよ。でも心からの歓声が上がった時、まさに「この仕事を続けて良かった」と感動します。恥ずかしながら涙が出てしまうこともあります。

演奏後は指揮者と全てのプレイヤー、協力者に心からの感謝を伝えましょう。


さて、家に帰ってスコアを広げ検証してみます。これがとても大切。新たな作品を書く大事な手がかりになります。うまく鳴った所、予想外の響きだった所、などなど原因を突き止めていきます。

そうやって経験を積み重ねていき、どんぴしゃ!思い通り!とはいかないまでも、自分の想像に近い響きを紙の上で作り出すのが可能になるのです。


さあ、「書いて、書いて、書きまくれ!」「頭で鳴らしてみよう!」

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